鹿の増加要因

鹿が急に増えた理由は主に二つの人為的要因と考えられます。
いずれも元を正せば、鹿の天敵である日本狼などを人間が滅ぼしてしまい、 人間の手で鹿の数を調整しなければならなくなったことが原因です。 その調整がうまく行かなかったのですから、人災です。

  • 植林政策(杉林の急拡大)
  • 鳥獣保護法と食品衛生法

植林政策

豊かな自然林が伐採され、人工林が増えると鹿が増える?と聞くと不思議な気がします。 これは、次のようなことが関係します。

  • 天然林は下草や低木の藪が濃く、鹿が自由に移動できない。しかし人工林内は藪が少なく移動が容易。
  • 人工林も伐採直後は地面に日光が当たり、鹿の食料となる草や低木が繁茂するので、豊かな餌場となる。
  • 成熟した人工林は狩猟者に対する隠れ処としても機能し、杉の皮は鹿の空腹時の食料ともなる。

それで、

  1. 天然林がなくなったので、鹿は人工林で生活せざるを得なくなる。
  2. 新しい伐採地ができると豊富な餌場ができ、一時的に鹿が繁殖する。
  3. 増えて縄張りから追い出された若鹿は人工林内を自由に移動し、新たな餌場に出会うとそこで繁殖する。

1956年の森林開発公団設立により、奥地の天然林まで人工林にされてしまうと、 鹿の移動を阻む天然林は山からほとんど消えてしまいます。 やがて里山の農地や、天然林の下層植生にまで食害を拡大させて行きました。

近年では林業不振に伴って、伐採地に新しい若木を植林できない 放棄林地 も周辺の鹿被害 を拡大させる要因になっています。

もし天然林が十分残っていたら、鹿は天然林内にとどまり、 人工林の林業被害(若杉や杉皮の食害)は限定的だったかもしれません。

鳥獣保護法

鳥獣保護法は、希少鳥獣(鳥類とほ乳類)の保護だけでなく、 狩猟鳥獣を資源と捕らえ、狩猟の適正化を図る目的で、乱獲防止を図っています。
法律ですので全国一律にかけることのできる狩猟制限の方式しか採ることができません。 そこでまず、鳥獣を狩猟鳥獣や希少鳥獣鹿などに分類します。 そして、この分類ごとに異なる制限を、狩猟者の活動にかけています。 例えばニホンジカは「毛皮獣」に分類しました。毛皮獣の制限内容は、 雌は狩猟禁止、狩猟期間は12月1日~1月31日の2ヶ月のみ、狩猟数は日1頭、銃は日中のみ可でした。
鹿に対してはこの制限は、かけ過ぎだったようです。 昭和50年ごろに8~9000人いた京都府の狩猟者登録者も平成17年に3000人を下回ります。 結果、鹿はあっという間に増殖し、平成に入り各地で農業被害が相次ぎました。

芦生でも、平成に入り鹿が急増。 時を同じくして、笹の開花に伴う笹枯れが京都北部から福井県にかけて起きました。 笹を失った山中の植生は数年で食い尽くされ、鹿は農地へ進出。

京都府は平成8年にニホンジカ管理適正化指針を策定し平成9年より雌の狩猟を解禁。 平成12年に 特定鳥獣保護管理計画(現法第7条に相当)を策定し、 現在、狩猟期間の捕獲制限は解除され、狩猟期間も11/15~3/15の4ヶ月に拡大しています。
しかし、目撃数、農業被害とも微増。 現在は府内で年間メス12000頭捕獲の目標を立てているのですが・・・ここで別の問題が。

平成22年、狩猟による捕獲数が雄雌計5848頭に対して、京都府が行う有害鳥獣捕獲数が7139頭。 狩猟は経済活動ですが、有害鳥獣捕獲は税金を使って行う自治体の事業。 これでは自治体の財政を圧迫するのみです。 平成26年5月に制定された新法でも、狩猟期間は10/15~4/15に限られます。

新法第14条の2で有害鳥獣駆除を目的とした指定管理鳥獣捕獲等事業の民間委託(法人に限る)が可能になり、 夜間の銃器使用が一部解除される予定です。撃ち殺した鹿をその場に放置しても良くなります。 しかし、これは狩猟者が行う狩猟事業ではありません。 それに狩猟期間の制限がある狩猟者が、 法人経営で24時間年間を通じて捕獲できる鳥獣捕獲等事業者に勝てるわけもありません。
下手をすると、個人狩猟者の更なる減少、法人委託による財政の圧迫、 法人維持のための捕獲数設定と鹿の急減、鹿の急減による法人そのものの解散 という、四つどもえの不幸が待ってます。

狩猟数、駆除数を全体で統括して、鹿の資源を一定に保つ仕組みや、狩猟者の生活を安定させる仕組み、 これらを総合的に判断する行政機構が必要だと感じます。

食品衛生法

良質の野生の鹿肉を得るためには、捕らえてすぐ血を抜き、その場でさばかなければなりません。 鹿肉は足が速く、すぐに鮮度を失うのです。 これは非効率で労働力を使います。 また、安定供給が難しいため、販売ルートが確立しづらいです。 個人のつながりで消費されることが多く、現金化につながりにくい。

奮起して、さばいた肉を加工し、地元の道の駅で売ったり、食堂に提供しようとすると、 食品衛生法第13条、 食品衛生法施行令第1条、 食品衛生法施行規則第13条、第14条、 食品衛生法第51条に基づく条例、京都府では、 食品衛生法に基づく公衆衛生上講じるべき措置の基準等に関する条例第4条別表第2や、 食品衛生法施行細則第6条別表第3が、立ちはだかります。

食肉の加工販売事業を行うためには、一定の衛生設備を設け、承認を受けなければなりません。 その基準は、食品産業からみれば当然のことなのですが、不定時でしか得られず、 しかも個人単位で山中で処理する、野生の鹿肉の処理に対しては重荷です。 投資した金額を野生の鹿肉販売で回収することは、資金力に余裕がなければ難しい。 野生の肉のみを加工販売対象としては、産業が成り立たちません。

狩猟者の後継者不足が指摘されますが、狩猟を経済的に成り立たせる枠組みがなければ、後継者が育つわけがありません。
自治体のサポートが必要だと思います。

ぜひぜひ、自治体が個人狩猟者をまとめ指定管理鳥獣捕獲等事業を行い、 鹿肉加工販売ルートを確立して、鹿の命を無駄にせず美味しくいただき、現金収入や税収を得る方法を探って下さい。
南丹市美山支所の役場のみなさん。がんばって下さい。

このサイトでは、画一的な植林政策、鳥獣保護政策の弊害のみを取り上げました。 しかし現実にはその他多くの人間の利害関係や思想が絡み合っています。 詳しくは高柳敦先生の 著作 をご覧ください。