環境問題

これまで芦生の自然破壊は、ダムの建設による芦生の森自体の破壊、人間による希少植物の盗掘が問題でしたが、 近年、鹿の増加による環境破壊が深刻になっています。
そこで、まず鹿の食害について説明し、続いて観光トレイル開削と、鹿の食害との関連について述べます。

鹿の食害がもたらすこと

芦生も、鹿の食害が進み、下草(下層植生)が大きな被害にあっています。 上谷など、社会教育目的でガイドトレックが認められているところをゴールデンウィークごろに歩いてみて下さい。 落ち葉のほか何もなく、沈黙の春が現実になったのかと思うようなありさまです。 もちろん、よく見ればミヤマキケマンやニリンソウが咲いていたりします。 しかし、「ふきのとう」などおいしいものは、外の林道の崖にしかみられません。

6月に入り緑豊かになっても、地表を覆うのはイワヒメワラビ、トリカブト、バイケイソウ・・・ それもつかの間、7月に入るとトリカブトはカビ病で萎れ、バイケイソウも虫害で立ち枯れます。 イワヒメワラビも8月に外来種のダンドボロギクが勢力を増す場所では枯れてしまいます。

下草の消滅によって地力が落ちたのか、倒木が目立ちます。 杉尾峠のすぐ東、上谷の最初のひとしずくが生まれる上谷源頭でも、2013年、まだ生きているブナが突然倒れました。 その1km下流でも元気なテツカエデの大木が倒れました。

斜面の保水力も落ちたのでしょうか。2013年9月の大雨のとき、水の流れは上谷源頭でさえ、 落ち葉や倒木が作った腐葉土層を、そこに生きる植物もろとも根こそぎ流して行きました。

鹿の食害は、単に下草が減るだけではないのです。 鹿が好きな植物から先に食べられることで次のような連鎖的な問題を起こします。

  • 鹿が好きな植物が食べ尽くされ、嫌いな植物が繁殖し、生える植物の種類がかたよってしまう。
  • 昆虫や微生物や菌類は、依存する(食料もしくは寄生する)植物の種類が決まっているので、 生き残る昆虫や微生物や菌類の種類もかたよってしまう。

昆虫や微生物や菌類は、植物を餌にしたり寄生したりと、植物を利用するだけではありません。 花粉を運んだり、落ち葉を分解して土を豊かにしたり、他の生き物に栄養を供給したりと、 森を豊かにする働きをして植物に貢献しています。
その種類がかたよると、鹿に食べられず生き残った植物も

  • 特定の昆虫が減って、花粉が運んでもらえず子孫を残せない
  • 特定の昆虫、微生物、菌類が増えて、病気や虫害に遭いやすくなる。

同じ畑で同じ種類の作物を作り続けると、いくら施肥して耕しても、土がやせて作物ができなくなります。 これを連作障害といいます。これと似たことが起きているのでしょう。
そして最後に、

  • 土壌を支える根が弱り、減り、土壌をつなぎ止められなくなる。
  • 倒木や水害を引き起こす、要因が増える。

鹿が特定の植物を食べ尽くすと、関係する微生物に影響して、森そのものがやせる原因を作るのです。
色々な植物が混じって生えていること、植物の多様性こそが、森を豊かにしているのです。
鹿の食害の怖さは、希少植物を食べ尽くすことにとどまらず、 植物の多様性を破壊することで森の活力を奪うことにあります。

鹿の増加と移動

  • 芦生での鹿の食害研究は、京都大学の ABCプロジェクト に紹介されています。
  • 芦生で過去に笹が生い茂っていた頃の写真は、同上サイトの 「過去と現在」 にあります。
  • 最近の群落消滅例として、福本氏の芦生短信2の2014年7月12日に 「ミカエリソウ」 の例が載っています。