将来に向けて
1:民間による横の連携。
"国定公園化後の芦生/3:芦生研究林への応用/利用調整地区を指定する環境”
のところで述べました、フィールドセンターとガイドトレックの提携を結んでいる民間3団体合同で入林審査を行う部署または機関を設立できたとすると、
ここを基点に議論を煮詰める機関が出来る可能性があります。
入林審査機関設立を機に、民間3団体の横の常時連携が出来るのが第1段階。
入林審査業務以外の、観光に関する連絡会議を、この3団体で平行して立ち上げるのが第2段階。
民間3団体の連絡会議に知井地区の他の観光事業者が参加するのが第3段階。
公的機関の横連携がすぐに出来ないのなら、民間の横連携で知恵を出し、各種許認可申請を分担して公的機関へ提出する。
公的機関の横連携不足に対抗するにはこの方法が有効と思います。
その民間協議会に南丹市美山支所産業建設課もオブザーバー参加すれば、各種許認可もスムーズに行くのではないでしょうか。
民間3団体の中で唯一、”美山文化村河鹿荘”はエコツーリズムについて旅行業法の登録を得ているので、送迎バスを運行出来ます。 他の事業者は2015年時点では、会員登録を行えば会員の送迎は出来るという手段はありますが、一般客相手の送迎業務は出来ません。 イベントを行うのに送迎バスは欠かせませんから、当面は河鹿荘がコアとなるでしょう。 研究林協定3団体に入っていない”自然学校”、 ”田歌舎”、 ”江和ランド”もそれぞれ独自の得意分野を持っています。 今でも相互連携を取っていらっしゃいますが、知井全体で連携を強め、キャンプ、川遊び、研究林ガイドトレックなど、分業的相互連携を取るのはどうでしょう。 ”知井地区の自然分化は、知井地区の事業者に占有させる。上谷だけは文化的歴史的つながりの深い生杉にも譲る。” など、知井のルールは知井で考えてもらうべきです。 談合と言われようが、外部の個人や大手旅行業者の好きにはさせない。 京都府も必要に応じてバックアップして、 必ず知井の人々(+生杉)のもてなしを受けてもらう。 そのようなシステムを作ることが、地域経済の再生に直結します。 もちろん、対価に見合うもてなし、サービスを提供する努力を知井の人々が提供することが前提ですが、 知井のみなさんは現在でも、十分価値あるサービスを提供されています。
芦生・知井の自然は今やプレミアものです。芦生・知井の自然に入る、それだけで高付加価値です。 自然を楽しみたい客層に、それ以上の付加価値などありません。 決して安売りする必要はありません。しっかり払って頂き、十分楽しんでもらう。 地元事業者の連携で、芦生・知井をブランドとして守るべきです。
2:地域分業型美山トレイル構想
外部の登山客に自由に入ってもらおうという従来型の美山トレイル構想には、登山者の安全確保という大きなハードルが立ちはだかります。 遭難の危険性がある限り、ましてや国定公園化後は施設の絶対的安全性を要求され、 地権者は遭難時の捜索費用負担等を恐れ、府は管理責任を恐れ、正式な承認や援助は望めません。
しかし、各地域毎のガイドトレックなら、地元の人が地元の山を案内するのですから、高度な安全が確保できるのではありませんか。
一例を挙げますと、洞峠に乗るのに、綾部市古屋の林道を経るのではなく、美山の鶴ヶ岡地区豊郷から遠回りして乗る、今はほとんど使われない踏み跡があります。
ここは普段は防鹿ネットで道がふさがれていて一般登山客は入られません。しかし途中にはすばらしい自然林が待ってます。
そのまま開放するのは、もったいない。鶴ヶ丘に泊まった人にだけ、ガイドトレックで案内する。
宿泊+ガイド+登山のセット販売です。
山も地域で占有し、その自然を地元事業者で囲い込む。 従来型の、勝手に山に入る方には遠慮して頂く。 その代わり、例えば登山者には非常用の装備のみ持って行ってもらい、昼食は山中でガイドが調理して提供。
山遊びの概念を、従来の”登山の達成感型”を捨て、”自然の中で遊ぶ型”へ変更します。 山の意味を畏敬の対象ではなく、消費の対象と捉える人が多くなってしまったのなら、それを認めるしかない。 山をアトラクション会場として捉える人の価値観を取り込むのです。
ただし、従来のように登山道などの箱物で、物理的にアトラクション会場にしてはなりません。 そんなことをしたら自然を壊し、元も子もなくなります。安全管理の多大な負担ものしかかります。
そうではなく、手を加えない素の自然環境のままで、心理的・経済的な部分で、自然をアトラクション会場のように感じてもらいます。 食事を作る手間や、テントや水などの重量物を運ぶ苦労、非常時の緊急対応、自然環境の予備知識の収集、これらをガイドが有料で負担し、 登山者には自然の中にいる楽しみだけを持ってもらう。
これなら、自然をそのままにして永続的な利益が得られます。安全な登山道の整備も不要になります。 投資は、ガイド育成と、ガイドと旅館の地域連絡協議会の立ち上げのみで済みます。 これら協議会を、各地域毎に持ち、それぞれの地域で権利と責任を分かち合います。 美山トレイルではなく、美山トレックスです。
登山道の入り口は、地図には載せません。防鹿ネットで塞ぎます。 地元の協議会の許可を得た者だけが、有料で自然を楽しむ、美山シークレットトレックスとして再構築するのはいかがでしょうか。 今、国定公園というブランドが降りてきたのです。 自然保護を前面に立て、入山許可制を敷くことは、ガイド収入と宿泊収入を同時に得る機会になり得ます。
3:何でもセット売りだ
アップル社のアイフォンは、ハードとソフトをセット売りにして顧客を囲い込みます。 紅花山芍薬保護地区など、自然が相手で一度に多くの観光客を受け入れられない部分は、美山のどこかで宿泊した人にだけ案内するとか、宿泊もしくは食事とセット売りにすべきです。 野々村仁清生家なども中に入るのは一度に大人数は無理です。 外国人観光客の中には、日本の田舎暮らしを一時体験したいという向きが多いと聞きます。 しかし、いわゆる”民泊”は生活体験型の無償宿泊でないと、 旅館業法(厚生労働省平成22年度措置)に引っかかります。 寝るところだけは”民宿”である必要があります。 これもセット売りに出来ないでしょうか。
セット売りは色々と権利が絡み合うので大変ですが、美山全体で客を囲い込む手段の一つになると思います。
4:畏敬の念
2014年夏、美山町観光協会会長の神田様は嘆いていらっしゃいました。 ”山は大事にしなきゃいかん。私が子供の頃は畏敬の対象として大事だった。 けれど今は金になるから大事と思っとる人がほとんどだ。 山に入る人を増やせば、山に対する理解が深まり、山を大事に思う人が増えてくれるだろうか。”
残念ながら、安価なレジャー対象として山を見る登山者をいくら美山に集めても、畏敬の念など現れないでしょう。 畏敬の念は教育によってもたらされる価値観の一つに過ぎないからです。 宗教・信仰についての理解を促す教育が必要です。
最近はトレッキングを観光ではなくスポーツと捉える人々まで現れています。 山を制覇するなどと、そんなに自己実現が好きなのかと思ってしまいますが、これは近代学校教育が生み出した歪みの一つです。 自己実現教育は経済弱者を経済敗者と誤認させる教育手法の一つで日本では30年ほど前の中曽根教育改革ごろから主張され出しました。 自己責任型美山一周トレイルコースを作っても、山に対する畏敬の念は生まれません。 スポーツ型登山者は、山を自己実現の手段として見るからです。
レジャーもスポーツも、行為者が行為対象(環境)に働きかけた結果(満足感)を得る対価行為によって、 自己の存在に価値を見いだすところに行動の動機があります。 山に対する畏敬の念が消えつつあるのは、対価に行動原理を置く構造的な問題です。 そして社会的にもっとも力のある対価が経済対価である構造が、経済原理ものとで生まれ、 冒頭の神田様の嘆きにつながっています。
この問題に対する一つの糸口がニュージーランド・トンガリロ国立公園にあります。 トンガリロ山はマオリ族の聖地でしたがヨーロッパの経済原理に侵略され危機を迎えていました。 マオリ族は1887年、国有の自然保護区とすることを条件に国にその権利を譲渡し、聖地を開発から保護する道を選びました。 宗教に行動原理を置いたことに対して経済原理側が一定の配慮を示したのです。
自然をだれでも入られる安全な場所に開発するのではなく、人間の活動拠点を限定して設置し、山へ入る人間側に準備と心構えを持ってもらう。 開発は入山者を教育面と安全面でサポートするガイド組織の設立と維持に重点的に当てて行う。 観光案内にはマオリとトンガリロのことを載せ、ガイドも必ずそのことに触れる。 その結果、経済利益はガイドと運営組織にもたらされ、登山の楽しみとマオリ文化と自然に対する理解は入山者に与えられ、 自然保護も同時に成り立ちマオリの精神的存在もあり続けることが出来る。
山に対する畏敬の念は、経済構造の中に部分的であれ、非対価的な部分を残し、その価値を教育的手法で伝えることで次の世代に伝わるのです。
5:自然の価値観を育む
2014年末に田歌舎の藤原様は次のようにおっしゃっていました。
”自然を楽しむという価値感は育てなければならない。 子供の頃に自然の中で遊び、親子や友人の人間関係を育ませる中で、自然が子供の心の中に良い思い出として残り、 その良い思い出が自然に対する気持ちを育て、やがて自然に価値を見いだすのだ。 だから、どうやって子供たちによい思い出を持って帰ってもらうかが、私の仕事の勝負所なのです。 私は、川遊びにその大きな可能性を感じています。 美山の自然の良さを将来の世代に理解してもらうために、川遊びを中心とした事業をやっていきたい。”
藤原様をはじめとする美山でがんばっておられる方々の事業が成功することを、心より願います。