中央環境審議会直前の抗議は無視される。

国定公園計画作成過程に問題があると考えた我々は、芦生短信2の福本さんの協力を得て、 京都新聞南丹支局に、植生調査の実態を報告しました。また、中央環境審議会自然環境部会委員のみなさんへもその情報を提供しました。

情報の内容は別ページにまとめました。

国定公園原案作成の問題点を要約すると、

  1. 基礎となる「現地植生調査」をほとんど行なわずに、計画を立案した。
  2. 保護側の意見を聞く機会を、京都府が素案作成段階で一回も設けなかった。
  3. 事業計画の中身が決まらず白紙の委任の計画書で、交付金予算申請の法的裏付けが得られる。

このようなことがなぜ許されるのか疑問でしたが、行政は「直ちに違反とまでは言えない」と解釈する抜け道を作っていました。

1:保護するのは「風致・景観」

特に第1項目、国定公園計画立案に「現地植生調査が不要!」というのは、驚異です。 別ページ記載の通り、環境省植生図やレッドデータブックの文献調査だけで、環境省の書類審査が通ります。

自然公園法 が保護するのは「風致・景観」です。 「植生」は自然公園法に規定がなく、同法 施行規則 、すなわち実際の施設工事の段で初めて登場します。 ああ、やっぱり植生調査をするんじゃないかと思ってはいけません。この件、第3項目で後述します。

実際の施行規則の運用は、公園計画書作成段階では、国土利用計画法第9条の土地利用計画の変更に絡んで、 「第1種にしたいのなら、『植生の復元が困難な地域等』であるという根拠を示せ」と、 土地所有者の所有権を保護するために、保護計画を厳しい側にする制約として作用します。 だから、第1種にしたくなければ、現地植生調査は別にやらなくても良い。

京都新聞 に「府は植生調査や」とありますが、「自然公園区域の新規指定調査業務委託仕様書」によると、 行った調査は「文献による植生調査」と「現地景観調査」です。 「植生調査」に「現地」が入っていませんので、京都新聞の表記は読者の誤解を招き、不適切です。

2:市民参画条例も、項目分解により、骨抜きに

第2項目は巧妙です。国定公園は府民のみならず多くの国民に影響を与える事業ですから、 「京都府民意見提出手続第3条第4項」にある 「広く府民の利用に供される建物等の基本的な計画の策定又は変更」に相当します。 ところが第3条ただし書き「本手続と同様の手続を実施するもの」により、【国のパブリックコメントで代替】と解釈することで、行わなくても条例に反しないとの解釈が出来ます。

さらに、個別の園地、歩道などの施設施工段階になると、個々の事業は小さいので、同ただし書き「軽微なもの」として、パブリックコメントの対象に含めなくて良いと府は解釈します。 つまり、公園計画公示前も公示後も、条例上はやらなくても良い。 ようは、大きい問題を個別の事案に分解して、全体計画を立てる部署、事業実施する部署がそれぞれ責任を取らなくても良いようになっている。

国定公園のように多くの者が関わる広域事業の骨格や方針を定めるとき、 よりよい結果を目指すために行政とは異なる視点から英知を集めるのが、 市民参画制度の意義であると私は考えます。 だから第1回目のパブリックコメントは、府が骨子を決める前の構想段階・計画の最初の段階で、府の責任で行うべきと考えます。 けれども実際の京都府パブリックコメントは、行政の「説明責任の向上」を目的にしていて、 行政が内容を詰めた後で最後に1回だけ「それに対する具体的な意見を聴く」形式になっています。 それで国のパブコメだけでも同じと判断したのでしょうが、それでは、公園計画骨子に市民の意見が入る余地がありません。

3:硬直化する法令の運用

第3項目は、公共事業の予算取り独特の方法を拡張解釈しています。 予算は前年に計画を立て、各部局から申請しますが、その時点ではまだ予算がついていません。 年度末の府の予算議会で予算総枠が正式に決まり、決まった額を各部局で取り合い、6月頃に正式に予算が付きます。 それで事業が本決まりで、ここでようやく、施設設計に向けた調査予算が付くのです。 巨大組織で予算をスムーズに決めるためには、こうするのが各部局環の予算バランスを見通しやすく合理的です。 義務で行う小中学校の工事ならこれで良いのです。 細部は、予算と実情を比較して、後の設計段階で変更すればよい。 このような公共事業予算決定システムを「箇所付」というのだそうです。

このやり方をそのまま国定公園事業に適用したので、 事業をする場所だけ決まった状態で中身が空っぽの計画のまま、計画書自体は承認されるというわけ。

最大の問題は、現地植生調査をやる予算についても、作る作らないが決まらないと予算が付かない。 決まったら、府議会承認済みの予算が付いてしまっているので、おいそれと中止できない。 予算が付いて、植生調査をやって、後から希少種生育域と分かっても、工事中止の後戻りが出来ず、希少種を保護するすべがない。

なので調査予算が付く前に、「そこに希少種が居る」と言わなければなりませんが、公言すると盗掘を誘発します。 箇所を国定公園域全体として、まず「事業優先順位を決めるための全域現地植生調査」を予算化してもらいたいところです。

注意しなければならないのは、予算は議会の権限ですから「箇所付」について政治判断が働く、 つまり議員の予算ぶんどり合戦によって物事が決まる部分があるらしく、 箇所付原案の決定過程が、非公開であることです。

3権分立で行政は議会で決まったことを執行する権限しかないというのは当然ですが、 血の通った行政執行のためには現場が臨機応変の判断をすることが欠かせません。 問題が起きたときは通達や基準に頼る前に、法令の目的と趣旨に帰って自ら判断する勇気を持って行政にあたって欲しいと願います。

中央環境審議会の様子

以上のことから、私達の懸念は無視してくるだろうなと想像していましたが、予想どおり、完全無視でした。 公開会議なので、京都丹波高原国定公園の部分だけ私的速記録に記載します。

質問はあらかじめ国立公園課へ渡され、回答を用意してきているようなスムーズな流れでした。その質問も、

  • 鹿食害
  • 芦生研究林の利用
  • 里地としての活用
  • 以上3点について、国の府に対する管理指導
  • 名称

に、要約されます。他の質問は無し。 けれど、こう決まってしまった以上、次に行うことは、園地、歩道計画について、京都府に対して保護側意見をぶつけ、公園計画書の変更を引き続き求めることです。 ビジターセンターの検討について、H27.9に大阪のスペースビジョン(株)に府は2,964,600 円で業務委託しましたので、これを公園計画に入れるために、公園計画を修正するはずです。

環境行政の課題

環境基本法 第3条および 自然環境保全法 第1条は、「人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持され・・・ 現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに・・・ 健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。」と、現在及び将来の世代の多くの国民が自然環境の恩恵を享受できるよう、 現所有者の権利の一部を行政が預かることについての法的根拠を与えます。 ところが「自然公園法」は第3条第4条で前2法との関係を謳いつつも、「人類」「将来」に直接の言及はしていません。

今回の中環審で、環境省が石垣島嘉良川河口に存在を確認したサガリバナ大群落について、群落全域の第1種指定を一部見送りました。 これは、現土地所有者の権利を優先する同法および国の姿勢を象徴しています。 「ゴルフ場誘致計画地であるので環境省原案第1種指定に反対する」との意見がパブリックコメントで寄せられると環境省は石垣市長と相談し、 群落の私有地部分を第3種や普通地域にも入れず、国定公園区域そのものから外すことにしました。 環境保護を図るという自らの職務を放棄したのです。 環境省は市有地部分のみ第1種指定を確保してかろうじて面目を保ちました。 「今後エコツーリズムによる観光利用の促進によって地元の理解を得て、次回の公園変更時には第1種に組み入れたい」と述べました。

ここに、環境行政の限界があります。未来に残すべき自然と判断したのなら、 現所有者に補償を払って、当該地域を名実ともに公有の保護地域とすべきところを、 何の補償もなく、国定公園ブランドによるエコツーリズムや地域活性化という空手形によって、現所有者の権利を制限します。 予算措置なく保護(目的)を図るには、ブランド賦与(手段)しかないのも分かりますが、これをずっと続けるうち、手段が目的化する。 「国定公園化(手段)を地域振興(目的)につなげて欲しい」という審議委員の発言は正にこれ。

地域振興(他者の現在利益)のための保護地域設定(所有権の制限)とは、「自地の権利に対する他者の干渉」に他なりません。 だから調整会議は、関係者同士の利害調整が主体になります。 自然の現状についての情報は、公園計画の中では当事者情報にもかかわらず、情報の出所が第3者である限り第3者意見と見なされてしまいます。 「国土利用計画法第9条の土地利用計画の変更」にともなう地権者の理解を得る行政手続は個々の権利の問題でありパブリックコメントになじまないという行政の見解は、 このような考えの基で成立します。

そこには、「行政が責任を持つので、未来のためにあなたの権利を預からせて欲しい」という、自然保護の根本理念がないのです。

結論

国定公園になったら自然が一定程度守られるというのは、流言に過ぎません。 保護に関心のある人々が、自治体に保護側の情報を提供し続け、「そこを開発したら面倒になる」と思わせることが必要なのです。