”国定公園化に係る「施設利用計画について」の意見照会”について

国定公園に関する住民説明会の内容

9月5日付京都新聞 に「国定公園へ区域案判明 京都府由良川・桂川上中流域」との記事が載りました。
9月4日に南丹市美山町で住民説明会が開かれ、そこで、国定公園の地域分けの案 (参考図:京都新聞記事より)が発表されました。 このなかで、次の3点について住民の意見を求めています。

  1. 国定公園を利用するための施設(道路や建物)整備の要望や計画を出してください。
  2. 公園区域図(案)について、特別地域の種別による規制が現状とあっているかどうか情報提供してください。
  3. 施設利用計画図(案)にない観光資源、見どころの情報を提供してください。

2は、第2種特別地域では皆伐(植林を一定の面積で一斉に切り出すこと)が規制されますので、皆伐の予定があるところを教えてくださいとか、 第3種特別地域でも宅地造成が規制されますので、予定はないですか、という意味です。

3は、シャクナゲの群生地を知っているから、そこに看板を設置してはどうか、などの提案を待っているという意味です。

2・3については、2014年9月26日30日(火)までに、南丹市美山支所地域総務課まで提出となっています。 ただし、提出様式は、各地区の区長に配付しており、各地地域振興会を経由して提出とのことです。

住民説明会の内容から、意見公募は、自然環境整備交付金申請のためのアイデア募集と推察します。 しかし、説明会で紹介された交付金申請可能項目は、道路、看板、トイレなど、枝葉の小規模なものばかりであり、 全体の自然公園設計思想が感じられません。 これを象徴しているのが、説明会において同交付金取扱要領別表の、

  • 一 ネ  自然再生施設
  • 一 ナ  ネに係る付帯施設
  • 二   国定公園において行われる生態系維持回復事業計画に基づく施設の整備事業

が欠落していること、
また、国定公園事業についての説明会であるにもかかわらず、 自然保護の観点の要望収集についても、説明資料から欠落していることが挙げられます。

漫然とした開発ではなく、芦生研究林を「知の核」、他の山々を「美の核」、里を「癒しの核」のごとく役割分担を行い、 それぞれの地域に適した保護もしくは開発を行うべきです。 この観点から、芦生研究林はこれまでどおり教育研究を担当し遊歩道開発を行わず鹿の食害や農林業被害防止の研究核として機能させ、 美山観光協会の進めている美山トレイルはシークレットトレイルとして地元が主導するハイキング観光ガイド産業として振興し、 南丹市美山の喫緊の課題である鹿食害を長大な鹿防止フェンスで防ぎ農林業・建設業の振興をおこない農家に希望を与えることで 離農を防ぎ美しい美山の里の風景を保全する、こういった全体計画を持って開発を進めることが肝要だと思います。 以下記載の意見は、この全体構想を具現化する各事業の例として、地域振興と自然保護とを両立させることを念頭に考察しています。

意見照会は、各地地域振興会を経由して美山支所へ伝達することになっていますが、 このフォームはそのような全体計画についての要望を想定していないため、直接の意見表明の形を取らせて頂きます。 本意件を構成しました理由は”国定公園化に係る「施設利用計画について」の意見照会”の理由をご参照ください。

国定公園化に係る「施設利用計画について」の意見照会について、私は以下の通り意見を表明します。

A:芦生研究林の位置づけについて

1:芦生原生林の利用目的を「自然環境に関する教育・研究センター」として位置づけてください。

ハイキング、風景探勝目的の利用の核となる場所として位置づけることは、鹿の食害で弱った芦生の環境負荷耐性の限度を超えます。
現在、入林規制を実施している状況を、ご理解願います。

研究林では鹿の食害回復のための基礎研究として、鹿の生態調査や絶滅危惧種の生態調査が行われています。 現状の入林人数を超えると調査に支障が出るだけでなく、絶滅危惧種の消滅を招きます。

2:施設利用計画図に示された主な自然探勝ルートのうち、芦生研究林を通るものは、整備対象から外し、 現状の登山道、または林道のままとしてください。

自然探勝路(遊歩道)とは、過去の判例※によれば、「自然の危険性に注意を払う必要のない程の安全性のある道」を示します。
第一種特別地域に設定された上谷登山道は、鹿の食害により植生の回復力が低下しており、予測不能な倒木が毎年発生しています。 また、第二種特別地域に設定されたトロッコ道も鹿の食害により法面だけに下層植生が残される状況です。

倒木と法面崩壊について、裁判で要求された安全確保のための「確実性のある具体的措置」を講じるためには、 弱った木の全面伐採と法面の確実な固定が必要になります。 絶対的安全保証を要求される遊歩道を作ることは、回復しがたい環境破壊をもたらします。

谷筋では、地上部の植生が弱っているとは言え地下では、倒木を含んだ堆積物が菌類と共に特有の豊かな生態系を築いています。 この中には京都府レッドデータブック絶滅危惧種二類のキヨスミウツボやショウキランが含まれます。 地盤を固め、倒木を除去することは、これら全てを失うことを意味します。

法面は鹿の食害を受けにくく、法面にしか子孫が残っていない植物がたくさんあります。 これを失えば芦生の回復が困難になります。

工事のあとで「植生復元施設」を作っても、失われた環境は二度と戻りません。 加えて、「植生復元施設」を作るために外部から持ち込まれた植物が、芦生原生の遺伝子を撹乱し、 取り返しのつかないことになります。 植物を芦生研究林内の別の場所から移動させるだけでさえも、植物の親子の位置関係が崩れ、子孫の残し方の生態調査ができなくなります。 これは、希少植物の保護活動に重大な支障をもたらします。

登山道のまま、研究林認定ガイド同伴のトレッキングのみ認める利用形態としてください。 さもなければ、生態環境の消滅、共生菌類の消滅、種子の消滅、遺伝情報の撹乱によって、研究林が調査・研究目的で使えなくなります。 研究林認定ガイドの方式は、倒木の危険から登山者を保護し、自然環境教育を登山者に行い、環境保全に二重に役立ちます。

B:特別地域の区分けについて

3:芦生研究林内地域に設定する第一種特別地域の中に「特別保護地区」を設定してください。 また、協議会を立ち上げ、特別保護地区内に「利用調整地区」を設定してください。 (2014/11/21修正:特別保護地区では入林制限ができないので)

三国岳(桑原方面)および由良川源流域大谷を含む地域は、鹿の食害があるにも関わらず、笹藪などの下層植生が奇跡的に残されています。 食害から芦生を再生させる鍵を握る地区であり、研究目的以外の入林を厳しく制限する必要があります。

杉尾峠から桝上谷までの上谷上流域の谷筋は、倒木と腐植質の混じり合った層を形成し、地下に多用な生態系を維持しています。 ここを踏み固めることは、菌従属栄養植物を始めとする希少種の絶滅につながります。 またモンドリ谷では芽吹きから倒木に至までの森の更新を調べるため、長期に渡って立入制限をして調査研究しています。 研究目的以外の入林を厳しく制限する必要があります。

指定認定機関を研究林に置くことで、利用調整地区の利用をこれまでどおり、利用と制限のバランスを取って行うことができます。

4:第一種特別地域のうち、三国岳(桑原)、を含む地域の大谷南側尾根筋にある地域境界を、久多側に10m拡張してください。

大谷南尾根筋もまた、下層植生が残されており、尾根線上の藪を保護するためには、10m幅で結構ですので、 尾根より久多側に、特別保護地区を拡張してください。 隣接する高島トレイルでは、盗掘等により希少植物が5年でほぼ消滅したことが確認されています。

C:公園事業についての要望

5:美山全域で、鹿の食害を防止する強力な防護フェンスを建設してください。

美山一帯の山林境界および山林-農地境界を、林道の砂防フェンス同等のH鋼と鋼鉄ワイヤで補強したフェンスで覆ってください。 これは、国定公園において行われる生態系維持回復事業計画に基づく施設の整備事業として 自然環境整備交付金の交付対象になります。

これは、美山で喫緊の課題である鹿の食害を防止して農林業の振興を推し進めます。 また、狭い範囲の遊歩道整備を遥かに超える建設産業振興策としても機能します。 国定公園の主力事業に生態系回復事業を充てる全国初のモデルケースとして、地域振興につなげてください。

6:知井地区の観光誘致策として、芦生原生林に隣接する、五波峠_八が峰の自然再生事業を推進してください。

芦生研究林内の下層植生の再生事業は、研究機関として人の手を加えない状態の再生を図る必要があります。 観光施設整備対象として向きません。 そこで、芦生に隣接する五波峠_八が峰の遊歩道を、京都府側でも拡張し、付近一帯を観光に向くよう 「芦生隣接自然公園施設」として整備してください。
これも国定公園内の自然再生設備の整備事業として自然環境整備交付金の交付対象になります。 また、田歌・五波峠線の拡張工事も同時に要望します。

須後が研究拠点の入り口なら、五波峠は一般観光客向け芦生観光の拠点とするのです。 登山向きではない多くのツアー観光客はこちらに誘致します。
芦生に研究林とは別に、観光目的の施設を作り、五波峠から研究林への入林は認めないことで、 日帰り観光ではない、宿泊客もしくはリピート客の獲得を狙います。

D:芦生以外の地域の自然探勝路開発について

7:遊歩道開発は、長老ヶ岳、頭巾山、八が峰、君尾山、大野ダムなど、すでにハイキングコースが整備されている 地域に限定してください。

これらの観光拠点は、公園整備事業によりガイド無しに登られるほどの安全性を確保します。 同時に自然再生設備の整備事業を行い植生の回復をはかると共に、ここから他の尾根道へ誤侵入することを防止します。 美山全体に1日~半日の安全なトレッキングコース群「美山トレックス」を作ることで、 宿泊施設を利用した、一般向け観光事業を行います。

8:美山観光協会が行う美山認定登山ガイド(研究林内を除く)の養成事業を、京都府は南丹市を通じて支援してください。
美山観光協会は美山トレイルのルートを今後も公開しないでください。

美山には整備された遊歩道以外にも優れた登山ルートがありますが、ルート整備を自然公園法に基づく整備対象とすると、 事故を想定した管理体制の構築に多額の費用がかかります。 整備事業は麓にトイレやガイドトレック希望者用の連絡先表示看板を立てることにとどめます。 自然探勝路は整備しません。ルートは登山道または未開削とします。ルートの詳細は公表しません。 ルートの入り口は、鹿防止フェンスを備えたゲートで遮断します。ガイドがいなければ入られなくするのです。 こうすることで、自然保護、自己責任による事故対応、地権者承諾問題、観光ガイド収入の4懸案をクリアした 住民主導の観光事業「美山シークレットトレイル」を成立させられるよう資金面で南丹市を支援してください。

以上、要望いたします。

別紙要望図/zone_modify.jpg (2014/11/21修正:特別保護地区では入林制限ができないので) /修正版/zone_modify2.jpg

※過去の判例

  1. 大杉谷事件の一審:神戸地裁昭和55(ワ)607号
  2. 同 控訴審:大阪高裁昭和58(ネ)2565号ほか
  3. 同 最高裁(国側):昭和60(オ)901号
  4. 奥入瀬事件の一審:東京地裁平成16(ワ)14597号
  5. 同控訴審 :東京高等裁判所平成18年(ネ)第2721号
  6. 城ヶ倉渓流の一審:青森地裁平成18(ワ)50号

本意件に賛同された方へのお願い

残念ながら国定公園は、地権者の質問にも満足な回答を出さないままに、まもなく発表されようとしています。

今後は、国定公園の運営をどのように行うかにかかってくると思います。

一時の収入のために環境を犠牲にするような経済行政バランス感覚は、将来の地元資産である環境資本を取り崩すことを意味します。 今必要なのは、元本である自然環境には手をつけず、環境資本を永続的な地元産業の発展につなげるような、自然共生型の経済システムのアイデアです。

思いつきであっても、何らかのプラスになることはあるかもしれません。 そのような、積極的な案があれば、ぜひ、下記の部署に送ってみてはいかがでしょうか。

各組織連絡先