”国定公園化に係る「施設利用計画について」の意見照会”の理由

国定公園に指定されても、色々な条件を設定しないと、環境保護と利用の両立はできません。

くわしくは、国定公園化後の芦生,保護と利用を両立させる方法 をご覧ください。

国定公園化に係る「施設利用計画について」の意見照会について、意見表明を行った理由は、以下の通りです。

細部については、芦生を巡る事情から、本サイト全体をお読み下さい。 をご覧ください。

重要:京都府は、芦生研究林をどのように捉えているのか

美山での説明会で、芦生は

核となる自然(芦生原生林)

利用目的

  • ハイキング
  • 風景探勝
  • 自然観察

と、されています。

右に、発表になった公園区域図(案)のうち芦生部分のみを掲載します。
紫が第1種特別地域、赤が第2種特別地域、緑が第3種特別地域、青は普通地域です。 普通地域は須後本部のほか、長治小屋跡も指定予定です。
色の濃い部分が研究林の敷地、淡い部分は研究林敷地ではありません。

同時に発表になった施設利用計画図(案)には、上谷登山道、トロッコ道を「主な自然探勝ルート」として掲載しています。
これを、右図の緑の太線で示します。

京都府案の意味するところ

京都府案は、芦生研究林の利用目的「教育・研究・調査」を逸脱します。芦生を観光地化しようとするものです。

これはまだ案の段階ですが、放置すれば、上谷やトロッコ道は「自然探勝路」に開発されてしまうでしょう。 協議会のメンバー構成によっては、今後、全ての登山道を「自然探勝路」に開発されることを阻止できません。

自然探勝路に求められる安全性能は、過去の裁判の判例によって、 「自然の危険性に注意を払う必要のない程の安全性」、と事実上定まっています。
スニーカーで、手ぶらで入っても安全なレベルに開発しなければならないのです。 巡視員の配置ほか、軽微であっても崩落の恐れのある法面の固定、倒れる恐れのある木々の伐採も必要とされます。 たとえ林道であっても、探勝路の一部として整備されるならば、 林道に接続する登山道の入り口全てに警告の看板設置を義務づけられ、 侵入防止柵、巡視員の配置などによる、誤侵入防止について「確実性のある具体的措置を講じ」なければなりません。 調査研究よりも、公園利用者の身の安全の保証を最優先するよう求められます。

自然探勝路設備(遊歩道)整備の果てに

上谷は鹿食害のため、下層植生の危機に瀕し、トロッコ道は法面(道の崖)だけに下層植生が残されています。 ここに遊歩道を通すことは、著しい環境破壊をもたらします。 上谷の斜面の弱った木々は倒木事故防止のため全て切断する必要に迫られ、残るのは荒涼とした大地。 トロッコ道の法面は絶対に崩れないよう固められることが求められます。

その結果、何が起きるでしょう。

地上部は弱っているとは言え、谷筋では倒木と腐食質と粘土からなる堆積物が菌類と共に特有の生態系を築いています。 地下にはまだまだ豊かな世界が広がっています。 この中には京都府レッドデータブック絶滅危惧種二類のキヨスミウツボやショウキランが含まれます。 これらは葉緑素を持たない菌従属栄養植物といって、菌類との共生が欠かせません。 寒天培地による発芽成功例はありますが、腐葉土での栽培成功例はありません。 共生菌との関係は未知の分野なのです。菌類は将来どんな発見があるか期待される分野です。 いつか日照不足に強い作物の開発につながるかもしれませんね。
倒木を整理し、地盤を固めれば、これらが全て失われます。

いままでは笹藪などが食害を防いできました。藪が物理的に鹿の移動を阻止していたのです。 藪なき今では、鹿が登ることのできない崖(法面)が唯一効果的に種を温存しています。 種子には寿命がありますので、生き残るためには少しでも良いので、どこかで毎年花を咲かせ子孫を残さなければなりません。 その場所が法面なのです。 法面の植生を失えば芦生の回復が困難になります。

工事のあとで「植生復元施設」を作っても、失われた環境は二度と戻りません。 「植生復元施設」を作るために外部から持ち込まれた植物が、芦生原生の遺伝子を撹乱し、 取り返しのつかないことになります。 同じ種類に見えて、実は地域ごとに別の個性があったということはよくあるのです。 一旦混血が起きれば、子孫は芦生オリジナルの植物でなくなってしまいます。

芦生研究林の他の場所から移動させても同じです。 違う場所に生えている同じ種類の植物の遺伝子を調べれば、その親子関係が分かります。 どの場所に生えているのが親で、どれが子か分かれば、どんなふうに子孫を広げていったか分かります。 これから、種や花粉をだれ(風?虫?動物?)が運んだかが推定できます。 この手法は、生態のよくわからない希少植物の研究に使われます。 人間が移動させると、生態調査が意味をなさなくなります。

芦生研究林は、教育研究のための拠点です。観光拠点にしてはなりません。 一旦、共生菌が失われれば、種子が失われれば、遺伝子の撹乱が起きれば、二度と元には戻らないのです。 植物の生態研究に大きなダメージを与えます。

利用目的を「教育・研究・調査」に限定するよう、みなさんで働きかけてください。

京都府案にたいする対案

現状の安全対策(自己責任)で入林させるには、どうすればよいのでしょうか。
答えは一つ、「自然探勝路」(遊歩道)を整備しなければよいのです。登山道・林道のまま、変更を加えないのです。 過去の裁判例から、答えはこれしかありません。

見かけは登山道でも、国定公園事業で整備すれば、遊歩道扱いです。
「未整備」の登山道のガイドトレックであれば、「絶対的安全保証」は不要です。 スニーカー客など安全装備のない方にはご遠慮願えますし、観光客が増えても、 ガイドによる自然保護教育により、環境破壊の進行を抑えることができます。

なにより、ガイド料、飲食料、送迎交通費の収入になります。 地域から得られる利益は、地域にこそもたらされるべきです。 大手旅行事業者の下請けでは、利益の多くが外へ流れ出てしまいます。

遊歩道整備事業ではなく、生態系回復事業への転向こそ、美山の未来を切り開く。

いま、もっとも困っていることは、鹿や猪・猿による、農業・林業の被害ではありませんか。 専門集団の研究林でさえ鹿の食害で危険な状況です。 こちらをまず解決し、より豊かにな自然を作り、美山の振興をはかることはできませんか。

地元の方は、自前もしくは地域で手作りの防鹿柵を築いていらっしゃいます。 しかし、柵は雪によって倒れ、ほころびが出たところから鹿が侵入します。 ゲートもロープやアンテナ線でくくった不安定なもの。 これをなんとか、美山全土で、南丹市を挙げて解決できないものでしょうか。

美山が国定公園化されたことで、これができるのです。
自然環境整備交付金取扱要領別表の

  • 一 ネ  自然再生施設
  • 一 ナ  ネに係る付帯施設
  • 二   国定公園において行われる生態系維持回復事業計画に基づく施設の整備事業

です。「自然再生の対象地」を「施設」と捉えるやり方です。

京都府は平成26年補正予算:文化環境部で 「森の京都」芦生の森再生事業費950万円を計上しました。 この手法を、美山全土で行うのです。国定公園指定域(普通地域も含め)に指定されるのなら、地域全体を包括する 自然再生計画を策定し、「生態系維持回復事業計画に基づく施設の整備事業」として、 国に対し、自然環境整備交付金を申請しましょう。

いままで各戸、各地域で行われている防鹿ネットを、2mを越える積雪に耐える強靱で長期に使用可能な、 確実に開閉するゲートを備え、風致・景観に配慮した色彩の、 林道の砂防フェンス同等のH鋼と鋼鉄ワイヤで補強したフェンスで置き換えてください。 鹿食害を防止することで、国定公園美山の風致・景観を回復させましょう。

大々的な鹿防止柵はみっともないと思うかもしれませんが、一部だからみっともないのです。 美山全土を覆えば、これを自然再生事業の象徴、緑の長城、"Miyama Great Wall"としてアピールする手が出てきます。 その副産物として、食害防止による農業・林業の振興がもたらされます。 美山全土となれば、かなりの交付金が必要になり、時間もかかります。 遊歩道よりも、一過性の観光センター建設よりも経済効果は遥かに高くなります。

回復を主眼とした国定公園事業を行い、全国に先駆けるモデルとして、美山を活性化させましょう。